抜刀の意思のないことを示すのと。“神逐(かむや)らいの(つるぎ)”が勝手に姿を現せないようにするための縄紐(なわひも)
イチの呪力によって編まれたそれが、剣を二重の意味で封じこめていた。

『貴様だけの力では、此奴(こやつ)らを同時に相手取れまい』

揶揄(やゆ)をはらみながらも、セキを案じる思念も伝わってくる。
しかしセキは、内なる声には反応せず、目の前の虎毛犬に告げた。

「……名乗りが遅れ面目ない。
俺は、隣国“上総ノ国”の赤い“神獣”赤狼と申す者。
貴殿は白虎様の“眷属”かとお見受けするが、如何(いか)に」

「ああん? 隣の国の“神獣”サマだとぉ? わりぃケド、てんっで弱そうで、話になんねぇな。
ま、人間としたら強いほうかも知んねーケドよ。
……ソレ、使わねぇの?」

隻眼の獣人は、至近距離でセキをなめ回すように見たのち、セキの腰の“神逐らいの剣”を前足の爪先で指し示す。

「いや、これは……。
貴殿のご指摘の通り、俺が“神獣”として未熟であるがための補佐。寛容してもらえるとありがたい。
ぶしつけなのは百も承知だが、貴殿の“主”様に、目通り願えるだろうか?」

「ハァ? 旦那にか? 目線だけでヤラれそうだけど、ダイジョブかぁ?」

ブフッと噴きだした犬の口を、前足で押さえる赤い犬の獣人。