(オレが“神獣”として使える能力、ほぼ身体系だからな)

瞬発力、跳躍力、持久力。人よりは優れていても、あくまで『人』と比べてのものだ。“神獣”本来の力とはほど遠いだろう。

己の不甲斐なさを感じつつ、現れた道へと歩き出すや否や。さっきまで晴れていた空が、急激に曇り、雷鳴を轟かす。
踏み出した足を、思わず止めた、瞬間。

「おいおい、兄ちゃん。ナニしに来やがった?」

バチバチという音と共に、セキの全身に絡まりつく、雷光を思わす鎖。

「なんだか物騒なモン、腰にぶら下げてるじゃねーかよぉ。
それに」

かすれた声音と共に現れた、大男──と、思いきや、セキより一回り大きな体躯(たいく)の、赤虎毛の犬。
そでのない(あわせ)からのぞく毛深い腕を腰にあて、直立し見下ろしてくる獣人の左目は、黒い革の眼帯に覆われている。

すん、と、その鼻ヅラがわざとらしいくらいセキの顔の側まで寄ってきた。

「なーんか、ヤな匂いも付いてやがるなぁ。
───おう、どうするよ、犬貴(いぬき)
「……確かに、我らが天敵の匂いがするな。だが、放つ“気”の属性が、我らの“(あるじ)”様と同じなのは見過ごせない」

背後から聞こえた声に、セキのなかで響く『付喪神(つくもがみ)』の呼びかけが重なる。

『主、コレをほどけ』