「私は何も、この国の白い“神獣”様を頼れとは、言っていませんよ?」

その、一言に。
一瞬、ぽかんとイチを見返したセキだが、直後、その胸ぐらを引っつかむ。

(こいつ! またやりやがった!)

「お、前っ……毎度毎度っ……! 本当に、いつかオレに殺されたいんだなっ?」
「おれの唯一の趣味なんだから仕方ないだろー……って。
いまおれ殺す気かー? 瞳子サマ助けてー」

例によってイチに棒読みの小芝居をされ、セキがその身体を揺さぶっていると。

「お二人ともっ……、いいかげんに、なさいましっ……!」

桔梗がやって来て、声音で人を(あや)めそうな勢いで、主従の不毛な争いを(いさ)めたのであった。




「実は、瞳子サマがお倒れになった日に、白虎(はくこ)様に遣いをやりました」

手回しがいい従者だと、褒めて良いものかどうか。しかし続く言葉は、なかなかに不穏なものだった。

「ですが、今日(こんにち)まで返答がありません。……まぁ、ある程度は予想していましたが」

書簡には、今回の経緯と助力の要請を簡潔にしたためたという。
イチからすれば、本来なら格下の“神獣(あいて)”。セキの“眷属”としての立場より、“神獣ノ里”からの達しとして送った形のようだ。

(カカ様との因縁……それに、オレの『家』との確執)