ああ、と、セキは胸中でうめく。
そうであろうことは予想していたが、改めて言葉にされることで、これほど自身の心をえぐられようとは。

(瞳子を、楽にしてやりたい)

すぐにでも。
あんな風に苦しむ瞳子を見続けるくらいなら、いくらでも白狼に頭を下げることはできる。
───ただ、それだけならば。

(あの、瞳子への執着)

自分のために喚ばれた“花嫁”だと言いきった白狼が、ただ瞳子を()やすためだけに力を遣い、身を引くだろうか?

(あり得ない。瞳子を、望むはずだ)

それを、百歩譲って瞳子自身が受け入れるのなら、セキの心情はさておき、白狼に助力を求めるのもやぶさかではない。

しかし───。
(何より、瞳子自身が嫌がるはずだ)

瞳子の苛烈さは、セキもよく知っている。
自分が助かるためとはいえ、心憎く思う相手に頼むくらいならと、捨鉢になりそうだ。

(意識が朦朧(もうろう)としている今なら、解らないかもしれないが)

そういう問題でもないだろう。

「本当に、それしか方法はないのかよ……」

頭をかかえ、(うな)るようにつぶやく。八方塞がりの心境になるセキに、イチが言った。

「ええ。ハク様でなければ、なりません。
……そろそろ、この意味について、お気づきになりませんかね?」
「は?」