現在のヘビ神である(こう)は、
「面倒臭いのぅ。あとは猪子に任せる」
と、厄介事に巻き込むなと言い残し()せてしまったが、猪子が心配をしたのは別のことであった。

「瞳子さまのお身体に、変調を来たす恐れがあるのではないか、と」

白い“神獣”と赤い“神獣”。双方と“契りの儀”を交わした瞳子は、同時に双方の『加護』という『生命力』で【生かされている存在】。

いずれ、その偏りによって身体に異変が起こるのではと、猪子に指摘されたらしい。

「…………お前が、あの晩ごまかしたヤツだな?」
「はい、そうです」

あっさりと、深夜の談話においての隠し事を白状するイチ。

(言ってやりたいことは山ほどあるが、いまは瞳子の身が最優先だ)
セキは、自らを落ち着かせるように、大きく息をつく。

「対処法も、もちろん聞いてきてはいるな?」
「はい。……言いにくいことでは、ありますが」

だからこそ、今の今まで黙っていたのだろう。
セキは、嫌な予感を抱えながらも、瞳子を助けるためイチにその先をうながす。

「なんだ?」

セキをまともに見るのがつらい、と、言わんばかりにイチは瞑目(めいもく)した。

「ハク様の……御力を、お借りするより他はないかと、存じます……」