「試す価値はあるだろ! そういうことは早く言え!」
「だからっ、あの状態が【本当に】病や怪我であったらと言ってるだろ! このド阿呆ッ」

早くも障子をひらき隣室へ向かいかけたセキに対し、現在の立場をかなぐり捨てイチが怒鳴りつける。

しばし、にらみ合ったのち。セキは、おもむろに障子を閉めた。

「……病では、ないと言うんだな?」

大きく息を吐いて、ふたたび膳の前へと座り直す。

「ええ。おそらくは、白狼様の加護の暴走かと」
「加護の暴走?」

聞き慣れない言葉に、眉をひそめる。
イチはそんなセキを見つめ、語りだした。

「実は、猪子(いのこ)さまに言われていたことがあったのです」

セキが瞳子を連れ、萩原家に戻った際。
イチは、瞳子という“花嫁”をセキが迎えたことを、“神獣ノ里”の(おさ)であるヘビ神とその側女(そばめ)であるシシ神に報告に行っていた。

すでに“神籍(しんせき)”にあり、仮とはいえ白い“神獣”の“花嫁”である者と、赤い“神獣”であるセキが“契りの儀”を行ったと。

「私は単純に、瞳子サマの形式上の“神籍”の記載をどうにかせねばと思い、カカ様たちに(あま)ツ神への申請を止めてくださいと、お伝えしました───が」