《七》

過度の心身の疲労により、気を失ったであろう瞳子を屋敷に連れ帰り、四日目となる卯刻(あさ)
当初は、環境の変化による負担もあるのだろうと、思っていた。

瞳子の看病は桔梗(ききょう)に一任しろと言われたのが(しゃく)で、顔を見せるなと追い出したはずのイチ。
その当人が、神妙な面持ちでやって来た。

「……セキ様。お話が、あります」

高熱にあえぐ瞳子の額の布をふたたび冷やしたものと取り替えたのち、セキはぼそりと一言、応じる。

()せろ」
「っ、大事な、ことです!」
「……大きな声をだすな。瞳子の身体に障る」
「だからそれを───」

言い争う主従のやり取りをさえぎり「失礼いたします」と、低音で品の良い中年の女の声がかかった。
障子がひらき現れたのは、たおやかでありながら、毅然(きぜん)とした振る舞いをする者。

「お二人とも。ここはわたくしに任せて、お引き取りを」
「いや、さ……桔梗。瞳子はオレが」
「セキ様。聞き分けのないことを、おっしゃらないでくださいまし。
御膳も隣の部屋に用意してございます。召し上がりながら、イチ殿のお話を聞かれてはいかがでしょう?」

駄々をこねるなと、かつての乳母(めのと)に言われれば、立つ瀬が無い。