「至極まっとうなご意見、痛み入ります。セキ様も異存はないかと」
「当然だ。こちらとしても、手順を踏まなかったことは申し訳ないと思っている。

この赤狼に代わり、かけがえのない“花嫁”を“召喚”してくださったこと、白狼殿には感謝申し上げる」

“国司”と、赤い“神獣”、そしてその“眷属”を名乗る男らが、示し合わせたかのように話を進めるなか。
それまで無表情のまま宙を見つめていた白狼が、突如、瞳子を見て言った。

「瞳子さん。……本当に、僕の名前を知らないのですか?」
「えっ……?」
「あなたは、僕のために()ばれた“花嫁”なのに」

虚をつかれて、瞳子は白狼を見返す。
青みがかった灰色の(まなこ)が、まっすぐにこちらを見ていた。

まるで瞳子が、白狼の名を知らないでいることが偽りであるかのような───否、知っていて当然のことを知らないという瞳子を責めるような口調。

「なんで、そんなっ……だって、あんたとの儀式の時、私、眠らされてたじゃない。あんな状況で、どうやってあんたの名前を知るのよ。
それに」

言いながら、瞳子はあの晩の屈辱を思いだしてしまう。身体の自由を奪われ、この身が汚されるかも知れないという、絶望に似た、虚無感も。