瞳子の感覚からすると、仮にそれが可能であったとしても、実行に移すなど心情的にはあり得ない。
そのうえ───。

(この場合、輝玄───さんが言ってるのは、私をその女帝になぞらえているってことでしょ?)

冗談じゃない、と、瞳子は身震いした。

イチが昨晩 瞳子のことを、セキと白狼、両方の寵愛(ちょうあい)を受けることができる存在だと言った時にも感じた、居心地の悪さ。

「“花嫁”が二柱の“神獣”の真名(なまえ)を知り得るとは前例なきこととはいえ、君たちの様子を見る限り、その『力』を従えるのは不可能ではないはず。
“花嫁”様さえ、その気になれば」
「輝玄殿。貴殿の発言は、先程 この場を追いやった下衆(げす)にも(もと)るものかと存ずるが?」

セキが感情を押し殺したような冷淡な物言いでさえぎると、面白そうに輝玄は彼を見返した。

「これは“花嫁”様への侮辱ではない。事実だよ?
もちろん貝塚殿のように、私は彼女を意思のない者だなどと言うつもりはない。ただ、その可能性を述べたまでのこと。

──さて、そのうえで“花嫁”様。君はこの事実(こと)を、どう思うかね?」

扇を閉じて、輝玄が瞳子に目を向けてくる。
この状況を楽しんでいるとしか思えない男に嫌気が差すが、しかし瞳子は、彼が放った言でひとつ気づかされた『事実』があった。