輝玄に反論をしかけたであろうイチが何かを言いかけて、口をつぐむ。それを見て、調停役である男は、したり顔で微笑んだ。

「そう、お気づきかな? “花嫁”という枠組みでとらえれば、確かに前例はあるまいね。
だが、過去の“陽ノ元”において、二柱以上の“神獣”を従えた御方を、我々は存じ上げている」

瞳子を抜かし、場にいた者たちがみな、察したような面持ちとなる。

(なに……? どういうこと?)

一人だけ取り残されたような心地となる瞳子に対し、セキが言った。

「……瞳子。俺が話した“陽ノ元”の成り立ちを覚えているか?」
「えっ……。確か、女性の(みかど)が各国に“神獣”と“国司”を遣わしたのが始まりだって話だと───」

言いかけた瞳子も、さすがにそれで思いだす。
───“神獣(かみ)”でありながら、人間(ひと)に従ったのは、彼らが彼女に懸想していたからではないか、と。

あくまでも、一説にはとセキが言っていたように、伝説上の話であろうと瞳子は理解していた。

(恋愛感情で、神様が人間の言いなりになるだなんて)

あまりにも、おとぎ話だ。現実味があるとは思えない。
ましてや、一柱(ひとり)二柱(ふたり)の神の話でなければ、なおのこと。

(何人もの神様を(とりこ)にしたあげく、政治的に利用するだなんて)