《六》

聞くに堪えない言葉の羅列に、瞳子(とうこ)の頭のなかは、真っ白になっていた。次いで、わきあがったのは、激しい怒り。

あまりのことに、身体が震えだす瞳子の前で、まず、セキが膝を立てた。
それを、イチが身体ごと押しとどめるのと。
保平(やすひら)の横にいた白狼が、その首に手をかけたのが、目に入る。

「そこまで!」

強く、扇を打ち鳴らす音と共に、輝玄(てるつね)が立ち上がった。
ハッとしたように、場に居合わせた者みな動きが止まる。

「どうやら我が国の“神官”は、物ノ怪に取り()かれておいでのようだ。とても正気とは思えぬ言動をなされる」

汚物でも見るような目つきで保平を一瞥(いちべつ)すると、輝玄は扇を広げ目もとより下を覆った。

竜姫(たつひめ)乙姫(おとひめ)。“神官”の憑き物を(はら)って差し上げろ」

輝玄の言葉に、二人の幼女が保平の側へと跳ねるように近寄った。

「“神官”、竜ヒメ『払う』!」
「───うぎゃっ」
「乙ヒメも『払う』!」
「───ふぎぃっ」

バシン、バシン、と。
幼女の見た目からは想像もつかないような力強さで、ふたりが保平の全身を平手で叩きつける。
それが証拠に、何度目かの彼女らの平手打ちのあと、保平が気を失っていた。

(え? あの子達、変わっているとは思ったけど。まさか、人間じゃないの!?)