「確かに前例はございませんが、“花嫁”様におかれては、すでに御心(みこころ)は決まっておられるかと。
今宵(こよい)の話し合いは形ばかりのものと心得ておりましたが?

こちらとしては、そちらに()わす白い“神獣”様より、瞳子様が赤い“神獣”の“花嫁”となられたこと、お認めいただくだけで───」
「はっ。たわけたことを申されるでないわ!」

イチの言葉をピシャリとさえぎり、保平が顔を真っ赤にして激昂(げっこう)する。

「“花嫁”など、所詮この“陽ノ元”に存在すらしなかった下賎《げせん》の者。“神獣”様に捧げるための供物に過ぎぬ!

見目が良いに越したことはないが、もとより、その意思などないも同然ではないか。
傀儡(くぐつ)のごとく我らの言うがまま、次代の“神獣”を(はら)めば……」

───思うより先に、身体が動く。

「セキ様!」
そんなセキを、イチが止めに入ったのとほぼ同時。

「やめてください」
ひゅっ……という、息をつまらせたような音を漏らし、保平の暴言がやんだ。

それは、その傍らにいた白い“神獣”の片手が、保平の首を締め上げたことによるものであった……。