「天女───“花嫁”様もお越しになられたところで、始めてもよろしいだろうか、ご一同?」

瞳子が上座に着くと、輝玄が広間を見回す。異論のないことを確認すると、手もとの書状に目を落とし、読み上げる。

まず白狼側、次いで赤狼側。それぞれの陳情が輝玄の口から述べられた。

「───とのこと。双方、相違あるまいか?」

おおよそ把握していた内容ではあるが、微妙に事実と食い違っているのは否めない。
互いに、後ろ暗いところはあるのだから。

(あちらは“契りの儀”に際し、瞳子の身体の自由を奪っている。オレはオレで)

瞳子が白狼の“花嫁”であることを知りつつ、“契りの儀”を交わした。

輝玄の確認に、保平が先に声をあげてみせる。

「前代未聞のこの不祥事。いったい、どう決着をつけるおつもりか? 『御使者どの』」
「先程も申し上げた通り、私はこの場においてはセキ様の“眷属”のひとつ。イチ、として身を置いております」

“神獣ノ里”からの遣いとしてセキについていながら、という厭味(いやみ)と。部外者が口を出すな、の非難の意が込められた『使者』という呼びかけ。
それに対し、イチは慇懃無礼(いんぎんぶれい)さを隠そうともせず、偉そうな面構えで保平に言い放った。