輝玄から竜姫・乙姫と呼ばれていたモノらが、広間の奥、一段高くなった御座(みまし)へと瞳子いざなう。

少し緊張した面持ちで、セキ達の前に瞳子が現れる。白い小袿(こうちぎ)緋袴(ひばかま)をまとい、黒い帯は金と銀の組紐(くみひも)で締められていた。

(まさか、元から用意していたのか?)

思わず、上座の手前に腰かけている輝玄を見る。満足そうに瞳子を見て目を細める様に、疑いが確信に変わる。

……白、赤、黒、そして金と銀。
白い“神獣”と赤い“神獣”、二柱の“花嫁”であることを表すかのような“禁色(きんじき)”の配分に、輝玄の計略に嵌《は》まったようで気分が悪い。

だが、この状況に、一番気分を害しているのは瞳子だろう。そう思って、心許(こころもと)なさそうに一瞬こちらを見た彼女に、セキは微笑みを返す。

セキの胸中を察したのか、瞳子は自らの首もとを飾る組紐に触れてみせた──赤・黒・銀の三色のそれに。
自分はセキの“花嫁”であると主張するような仕草に、心の臓を鷲掴(わしづか)みされる。

(か、可愛(かわ)ッ……)
すかさず、イチの冷水のような声がかかる。
「その顔、阿呆みたいですよ」
「っ……うるせーな、不可抗力だろうが」

イチに噛みつく言を返しながらも、セキは指摘された自らの(おもて)を片手で隠すように覆う。
そんな主従をよそに、輝玄の声が広間に響き渡った。