広間で白狼らと向かい合うように腰かけながら、セキはイチと小声で会話を交わす。

「……白狼殿のケガはどの程度だ」
「薄皮を裂かれたくらいですが、何しろ“神逐らいの剣”が付けた傷。血止めは致しましたが、ハク様自らの再生は不可能でしょう」
「……(あと)が残るということか?」
「おそらくは。……まぁ、御身(おんみ)に関わるほどの傷では無いでしょうがね」

視線の先の白狼は、手の甲にイチが為した血止めの(さらし)を巻いていた。

(パッと見は虫も殺さぬような方だがな)

“神逐らいの剣”───『付喪神』が攻撃を加えたということは、瞳子自身が彼を拒絶したと推察できる。

セキの手を離れたとはいえ、剣が自らの【食欲】だけで動くことはできない。
最初の晩に瞳子が『付喪神』を()たと言っていたことと、何か関わりがあるのではないか。

(行き過ぎた護りではあるが、本来、刃を持つ物。振り払うだけでも相手を傷つけてしまう)

それはセキの責任においての自省。だからといって、瞳子に剣を預けたことに後悔はなかった。
護れなかったという最悪の事態に至らずに、本当に良かったという思いのほうが強い。

「竜ヒメ、天女サマ『お連れ』シタ!」
「天女サマ、コッチ! 乙ヒメ、『ご案内』スル!」