「そうです。僕の本性は(けだもの)
……いまから、あなたにも僕の真実(ほんとう)の姿を見せますね」

立ち上がり、男は身にまとった白い着物の帯を無駄のない所作で解き始めた。

瞳子は我慢ができず、部屋から逃げ出そうとしたが、腰が抜けたのか、身動きができない。

(イヤ! もう、なんなの朝から!)

男が為そうとする行いは昼夜関係なく、恥じるものだろう。

変態男、死ね! と、瞳子は胸中でののしり、せめて自分の心だけは守ろうと固く目をつむる。

『目を開けて、こちらを見てください』

その声に、瞳子は耳をふさぎかけ、直後に違和感があるのに気づいた。

(あれ……いま)

『確かに僕は獣ですが、あなたを無闇に傷つけたりはしません』

音の出所が男のいた方向ではなかった───瞳子の、頭のなかだ。

その事実に気づき、男がいたはずの場所を見やると、白い大きな犬……いや、狼がいた。

「なんで……」

あぜんとする瞳子の側に近寄ってくる獣は、犬というには野生味が強く、また仮に狼だとしても(けた)違いの大きさだった。

しかし、その精悍(せいかん)な顔つきと牙ののぞく大きな口は、瞳子に、昔読んだ海外の動物記を思いださせた。

(あれ……好きだったんだよね)