それに気づかぬはずもないだろうが、輝玄は反省する素振りもなく、初めからそうするつもりだったといわんばかりに応えた。

「そうだね。いざ、参ろうか?
“上総ノ(かみ)赤狼(せきろう)殿」




海中の“大神社”とは、いったいどのような場所なのか、などと。
セキは感慨に(ふけ)る間もなく、一触即発の只中(ただなか)へと、放り込まれた。

「いったい、何をしでかしてくれたのだ! セキ殿!」

たどり着いた先で、浴びせられたのは罵声(ばせい)。それが“神官長”である貝塚(かいづか) 保平(やすひら)のものであることに気づく。

「おやおや。なかなか面白い事態になってるようじゃないか……」

セキと共にやって来た輝玄も、言葉はふざけているが、面食らっているような声をあげた。

「セキ様!」

イチが走り寄って来るのを目の端でとらえ、セキは瞳子の姿を探し、(こうべ)をめぐらせる。
そして───。

「お前……」

姿をハッキリと見たのは一度だけ。【彼】との主従の“誓約”を交わした時のみ。

淡い金の髪を腰まで伸ばし、左右で色の違う青と緑の瞳。
酷薄そうな笑みを浮かべ、その【男】はセキを振り返った───自らの腕に瞳子を囲ったまま。

『遅いぞ、(あるじ)。貴様の愛し(をみな)は我が護ってやった。褒美に【あれ】を()ろうても良いか?』
「何をっ……! 何を言っておるのだ、こやつはっ!」