それが、『人』で在りたいと望みながら生きてきた『虎太郎』の境遇に、重なって見えたのだ。“神獣”という(かせ)に、無理やり繋がれた己のように。

だから、力になってやりたいと思った。瞳子が望むなら、その願いを叶えてやることができる───赤い“神獣”と呼ばれる自分になら。

(そうして、瞳子をオレの“花嫁”にしてしまった)

それは、新たに瞳子をこの世界に繋いだ『鎖』でないと、誰が言えようか?
自らの“花嫁”にと望んだ己の心に、ひとかけらもやましい想いが無かったとは言えまい。

萩原(はぎはら)虎次郎(こじろう)尊臣(たかおみ)。……君の『お祖父(じい)様』を思いだすね。実にうまい遣り口だ。
実際、天女様はすっかり君を信頼し、慕っているようだし。なんとも憐れな姫君だね」
「……だから、なんだ?」

ぴくり、と、輝玄の片眉が跳ね上がる。

「俺はともかく、瞳子まで愚弄するような物言いはやめてもらおうか。
彼女は、意思のない人形ではない。己の心で判断し、考えうる力をもつ女性(にょしょう)だ。
貴殿のくだらぬ思惑はどうでもいい。俺を“大神社”へ案内する気がないのなら、俺自身の手で【鍵穴を壊してでも】向かうが?」

如何(いか)にする、というセキの言葉を待たずに、輝玄はいきなり声を上げて笑いだした。