《三》

(なにコイツ……頭おかしいんじゃないの?)

瞳子は、目の前にいる、やたらと綺麗な顔立ちの男を眉をひそめて見返した。

普通に生活していればあまり縁のない『神獣』という単語。
逆に、自分の脳内で自然に変換できてしまったことに驚く。

(『心中』ならまだしも! まぁ文脈おかしくなるけどさ)

「信じられませんか?」
「当たり前でしょ! 人の身体の自由を奪って、そのあげくに───」

処女まで奪って、とは、口にしたくなかった。

何かされたのは分かっているが、ひょっとしたら、この身は汚されてはないのかも知れない、と。

瞳子は、一縷(いちる)の望みをもっていた。

(だって……痛く、ないし)

友人その他から聞いた話では、翌日まで下腹部に痛みが残るという。
だが幸いなことに、自分の身体にそういった変化はなかった。

(服は着せ替えられてるけど)

“花子”だという二人が、瞳子に着物をまとわせたのだろう……と、思いたかった。

ところが。

「あなたの身体に消えない“痕”を残したのは事実です」
「は!? やっぱりか、このケダモノ! 近寄んなッ!」

瞳子は自分を抱きしめる腕に力をこめる。

そんな彼女を見て、男は、悲しそうな笑みを浮かべた。