狛狼の向こうにある赤い鳥居。そして、その向こう側が神の領域にあたる場所───“大神社”となるはず。
セキの衣をつかんで見上げると、苦笑いが返ってきた。

「ああ、瞳子が驚くのも無理はないな。
この国の“大神社”は、海の中にあるらしい」
「えっ!」
「その昔、“月読(つくよみ)ノ神”と時の帝が逢引きに使ったという、いわくつきの神社です」
「はあ?」

セキとイチの説明を受け、瞳子の頭のなかは混乱した。

(え? 海中神社ってこと? いや、それよりも逢引き(デート)に使ったって……)

突っ込み所が重なると、二の句が継げられなくなる。
それでも気を取り直し、瞳子は疑問を呈す。

「ちょっと待って。私、“神籍(しんせき)”に入ったって、イチから教わったけど。海のなかでも息できるってこと?」

不老ではあるが、不死ではない。普通の人間とは違いケガをしても治りが早く、病にもかかりにくいとされる肉体(からだ)

“神獣”と“契りの儀”を経た者が入るという“神籍”。
これには、神の戸籍に入るという形式的な意味と、肉体の変化を伴う実質的な意味があるということだ。

(じゃあ私って、二重戸籍なの? って問い詰めたら、止めてるって言われたっけ)

形式的なほうは、イチが高位の神に言って記載を保留してもらっている───らしい。
詳しいことは瞳子にはあずかり知らぬことだが。