おそらく人によってはこれを『色気』と取るのかもしれないが、瞳子は基本的に色男が苦手だ───いや、正確には嫌いだ。

「お戯れがすぎますね、穂高殿。
ハク様方がお待ちなら、なおのこと。急いだほうがよろしいのでは?」

輝玄の視線をさえぎり、立ち塞がるようにしたイチに対し、当の本人は大仰に溜息をついてみせた。

「やれやれ、主従そろってお堅いことだ。こんなことなら、神酒(みき)のひとつでも用意させておけば良かったよ。
───それでは天女様。参りましょうか」

瞳子に流し目をくれたあと、くるりと背を向け砂浜を歩きだす。
そのあとにセキ達とついて行きながら、ふと瞳子は疑問に思った。

(あれ……待って。このままだと海しか見えないけど?)

行く手を阻むもののない、海岸線。静かな波音とさやかな月の光。
砂地を歩く瞳子たちと、輝玄ら一行の衣ずれだけが響く。

やがて前方に見えた赤い鳥居の前には、一対の石像。雄々しい狼がほえるように口をひらいたものと、うなるように牙をのぞかせながらも、口を閉じたもの。
阿吽(あうん)を示す、狛犬ならぬ『狛狼』。
さらには、(さかき)の枝葉と水晶玉が置かれた、簡易な祭壇のようなものがある。

しかし───。

「あの……セキ? 鳥居の位置、おかしくない?」