「あの……セキ?」
「なんだ?」
「手は、いつまで……」
「ああ、そうだな」

放すのが惜しくて、ずっと瞳子の両手をにぎっていたが。
ふと思いついて、セキは瞳子を見つめる。

「もう一度、瞳子のさっきの言葉が聞けたら、放す」
「なっ……」
「悪いな。まだ実感がない」
「……嘘つき」

頬を染め、上目遣いで非難されても、その言の葉は弱い縛りだ。一向に、セキの自尊心を傷つけるものではない。

失笑をもらしたセキへ、せめてもの一矢を報いようとしたのか。
上半身を浮かした瞳子の唇が、軽く、ついばむようにしてセキの唇を奪った。

「……好き」

吐息が頬をなぞって、つやめいた黒い瞳が挑むようにこちらをのぞきこむ。

「言ったわよ? 放して───」

セキは、瞳子の望み通り、彼女の両手は開放した。代わりに、その細い腰を引き寄せて、抱きしめる。
───離せるわけが、なかった。

「……やっぱり、困るだろう? だから訊いたんだ、それなのに」
「アンタ、言ったじゃない。私が嫌がることはしないって、誓ったって。
だから私は」

セキの腕のなかで身じろいだ、瞳子がまっすぐにこちらを見上げてくる。

「セキ。アンタを、信じてる」