「どこか、痛いところが」
「私じゃないわよ、ばか! ……違う、そうじゃなくて……」

にぎられた小さな拳が、弱い力でセキの胸を叩く。震える長いまつげの先が、濡れている。
唇をわななかせ、瞳子が言った。

「ごめん……私のせいで」
「いや、瞳子のせいじゃないだろ。……足は大丈夫か?」
「だから、なんでアンタは私のことばっかり……」
「瞳子より大切なものがないからな。仕方ない」

この様子なら無事のようだと、ホッと大きく息をついた、その時。

「……好きっ……」

吐息まじりに告げられた声は、すすり泣きに近く。実際、瞳子は泣くのをこらえているようで、目に涙の膜が張っていた。

「セキが好き。でも……これを言うために、アンタをこんな目にあわせたかったわけじゃないの。
ごめ……ごめんなさい……!」

まばたきと共にあふれた涙をぬぐいもせず、瞳子が発した言葉に呆然と彼女を見返していると。

「───曲がりなりしも、この方、“神獣”なんで。こんなかすり傷、あと半刻(はんとき)もしないで治ってますから、大丈夫ですよ」

ポン、と。突然 肩にのせられた手と、瞳子の先程の言。セキは、一気に諸々の状況を把握した。