夕闇が迫り、あたたかな茜色を頬に受けた瞳子の表情が、わずかにくもる。それを目の端に映しながらも、セキは先を急ぐ風を装い前を向いた。

そうして黙々と歩き、切り立った斜面と狭い足場に差し掛かった頃。
通るのは初めて屋敷に向かった時と合わせれば、二度目となる道。慎重なところがある瞳子、そして背後にいるイチへの信頼から、どこかで気を抜いていたのかもしれない。

「きゃっ……!」

驚きに似た短い悲鳴は、すぐ後ろ。瞳子のものだった。
腰の剣をイチに投げやり、地を蹴って、思いきり腕を伸ばす。
なんとか引き寄せたはいいが、空中で反転させるのが精一杯で、セキは瞳子を抱きしめた状態で、崖を転がり落ちる。
強い衝撃と、回転。枝葉や岩肌が、全身を叩きつけ、切り裂いて行く。

それでも、瞳子にだけは一筋の傷も負わせないよう守りながら、勢いがなくなるのを待つと。
ようやく、ドンッ、という衝突音と共に回転が止まった。
どうやら、大岩にぶつかったようだ。

「……っ、は……! ───瞳子、大丈夫かっ」

軽いめまいと痛みに短く息をつき、腕のなかの瞳子を見下ろす。

「大丈夫かって、アンタ……それ、私のセリフ……」

瞳子の右手が、セキの頬に伸ばされた。
泣きそうなその顔に、思わず身を起こして瞳子の肩から腕に両手をすべらせる。