(だけど、いまは)

負い目や恩返しなどという責任感からくるものではなく、純粋にセキに真実(ほんとう)の名前を教えてあげたいと、考えていた。

(そうすれば……セキも、“神獣”としての自分を多少なりとも受け入れやすくなるんじゃないのかな)

欲をいえば、セキ自身が“神獣”としての自分を肯定することができればいいと、そう思っていた。
それが、セキ自身の幸せにつながればいいと。

自分の本性を認められないのは、不幸ではないが、決して幸せにはなれない。
───瞳子が二十代の初めの頃に読んだ小説の一文だ。

瞳子自身、自分が『女』であることが嫌で、『男』に生まれれば良かったと考えていた時期。それだけに、余計にその言葉に衝撃を受け、また、反発も覚えた。

けれども、歳を重ねいろんな経験を積むなかで、少しずつその言葉の重みが解ってきてはいた。

……完全に、受け入れられた訳ではない。いまでも『女』になんて生まれなければ良かったと、思う時もある。
上司に襲われかけた時や、この“陽ノ元”に来て自分の身体の自由を奪われた時のように。

(でも、昨日セキが護ってくれようとした時、嬉しかったな)