ま、あくまでもこちらの都合で、当人にとっては良し悪しでしょうが、と、イチは付け加える。

要するに、罪悪感の軽減という意味だろうか?    
縁もゆかりもない人間を、“召喚の儀”という大層な名目で連れ去るわけだから。

「そして、ここからが本題ですが」

ちらり、と、イチは瞳子を上目遣いで見た。探るような視線は、瞳子の出方を窺っているようにも見える。

「“返還の儀”は、仮の“花嫁”様のためのもの。瞳子サマがセキ様に真名(なまえ)をお伝えしてしまったあとでは、この儀式は行えません」

ああ、と、瞳子はイチの視線の意味を悟る。

(よくも黙ってたわね! って、私が怒るとでも?)

「……私がセキに、せめて名前を教えてから“陽ノ元”を去りたいって、自己満足な考えでいただけだから、別にあんたを責めるつもりはないわよ? 私に、黙ってたからって」

ふふっ、と、瞳子はわざとらしく笑ってみせる。それは良かったです、と、イチも取ってつけたような笑みを張りつけた。

瞳子がセキに真名を伝えなければと思っていたのは、世話になってる負い目と、当初考えていたよりもセキが『良い人』なので、せめてもの恩返しの気持ちもあった。