虎太郎の後ろで、女に聞かせるように従者がぼやいた。

「どうやら、自分を害するモノとそうでないモノの区別もつかないらしい。
助け損ですよ、セキ様」
「助けてなんて、頼んでないわよ!」

すかさず女が言い返し、虎太郎は思わず噴きだした。
確かに、その通りだ。

不快さを隠さず、女がしかめ面をする。

「……何よ?」
「勝手なことをして悪かった。
俺の名は萩原(はぎはら)虎太郎尊征(たかゆき)
この辺りには探しものをしにやって来た。
お前は?」

言いながら手を差しのべるも、女はツンと横を向き、よろめきながらも自力で立ち上がる。

「私は……月島瞳子。ここへは……」

そこで女───瞳子は唇を引き結んだのち、吐き捨てるように言った。

「好きで、来たわけじゃない……!」

自分の言葉が自分に突き刺さったのか、瞳子の目に涙が盛り上がるのが見えたが、虎太郎の関心は別な所にあった。

月読(つくよみ)の加護───これか……!)

「イチ、聞いたか」
「耳は良いので聞こえております。
ですが、お忘れですか?
その女───失礼、その御方は白い“神獣”サマの『御手付き』にございましょう」
「手なんてつけられてないわよ!」