「儀式の段取りについては近づいてからお話ししますが、貴女に当初お伝えしたように、儀式は約半月後───新月の晩に行うべきとされています。
そして、無事に儀式が済んだとして貴女がまず直面するのは、命の危機かと存じます」
「命の危機って……」

なんだか穏やかでない話だ。
瞳子は、イチが話しながら簡潔に記してくれていた文字を追うのをやめ、イチへと目を向ける。

「もしくは、身の危険とでもいいましょうか。こちらに“召喚(しょうかん)”された時、何か危うい場面に遭遇されていたのでは?」
「あっ……」
「お心当たりがあるようですね」

瞳子の反応に、イチが軽くうなずく。

瞳子は、この“陽ノ元”に来る寸前、職場の二階から落ちた自分を思いだす。
駐輪場の屋根に飛び降りようとしたが、弾みで地面に叩きつけられるところだった。

「“召喚の儀”を行う際、“陽ノ元(こちら)”と異界(あちら)をつなぐ時空をヘビ神が開くのです。望月の晩という、共通の事象が起こった時に。

“神獣”の(つい)となる存在の“召喚条件”は幾つかありますが、決め手はただひとつ、対象に身の危険が迫っている瞬間なのです。
異界の者を救うという名目で、こちらに()び寄せるわけですね」