「三年も妻の座に置いて、貴方、男として指一本あの方に触れてないでしょう?」
「は? 実緒は妹みたいなモンだし、第一アイツ、虎次郎(こじろう)を好いてたんたぞ?」
「馬鹿ですか。それとこれとは話が別ですよ。
貴方が実緒殿にちっとも関心をもたずにいたから、あの方が自分に魅力がないためだって、すねてしまわれたんでしょうよ」
「……なんでそうなるんだ? オレがどう思おうと、実緒の価値は変わらないだろ?」

セキが実緒を『女』として見なかったからといって、実緒に魅力がないことにはならないはずだ。
セキは、本気でイチの言ってる意味(こと)の理解に苦しんだ。

「お前、とりあえず実緒に手ぇ出しとけば良かったのにとか、思ってないよな?」
「思ってますよ。それが夫婦(めおと)の契りってものでしょう」
「…………オレもう寝ていいかー? お前と話してると時々疲れる」

イチとの考え方の違いはいまに始まったことではない。だが、いまさら実緒とのことを蒸し返されるのは心外だ。

セキはイチに背を向けて、(しとね)にもぐりこむ。

「じゃ、また明日なー」
「まだ話は終わってませんよ!」

掛け布団をめくって、イチがセキを見下ろしてくる。ぐっと、至近距離まで顔を近づけ、話を続けられた。