白狼の“眷属(けんぞく)”から、瞳子を助けなければ良かったといわんばかりのイチの嘆きに、覆いかぶせるように否定する。
イチは悪びれもせず、ええ、と、うなずく。

「まぁ主に貴方のせいですけどね。
それに、瞳子サマご自身が貴方の“花嫁”になることを選んだのは、紛れもない事実ですから。
これは、こちらとしては強みになります」
「ああ」

白い“神獣”の元から逃げたい一心であったのも事実だろう。だが、だからこそ、あちら側に一片たりとも瞳子を求める『義』はないのだ。

(というのは、あくまでも俺のなかの【人としての】考え方で、神の世界では常識が変わるだろうな)

白い“神獣”の為に喚んだ“花嫁”──と、あちらは主張するはず。
それもひとつの正当性だ。しかし、応じる義理はない、と、こちらが思うのもまた、“神獣”としてなら、言える。

(悔しいが、じーさんの言う通りの展開になってきたな)

『人』としても“神獣”としても。セキは己の真理に背き、瞳子との“契りの儀”をなかったことにはできない。
実際、尊臣の言うように、斬り捨てるなどという蛮行に及ぶかは別として、そのくらいの覚悟で瞳子を護りたいと思う。