セキが神妙にうなずくのを見届け、イチが話題を変えた。

「当座の問題は、明日のハク様との対面ですかね。穂高(ほだか)氏には了承を得てますし、調停役としては悪くない方ですよ。
ただ……」
「ただ、なんだ?」
「無類の好色家らしいので、瞳子サマのことがいろいろな意味で心配です」
「……まさか。相手は“花嫁”だぞ?」

思いきり眉根を寄せ抗議の意味で問えば、イチが額を押さえて、うなる。

「私も数えるほどしかお会いしてませんがねぇ。……いや、良識はお持ちの方だと信じたいとしか」
「──イチ。瞳子より俺を心配しろ。場合によっては正気でいられないかもしれん」

もし、穂高が瞳子に妙な真似をしたらと、想像しただけで(はらわた)が煮えくり返る。
実際にそんな場面に遭遇したら──“上総ノ国”の“国司”の首がすげ変わる事態になることもあり得る。……物理的に。

「あー……確かに、瞳子サマより貴方のほうがマズい気がしますね。そうならないように、善処します。
それにしても、想像以上に大事になってきましたね、貴方の“花嫁”問題。だから私はあの時、放置の方向でいて欲しかったんですけどねぇ」
「言うな。瞳子のせいじゃない」