「おい」

もう一度、虎太郎は呼びかける。

突然 現れた自分たちを女は不審げに見返してきたが、虎太郎が呼びかけたのは、地中に“隠形(おんぎょう)”している存在(もの)へだ。

()にあるは“神逐(かむや)らいの(つるぎ)”。
人外のモノを魂ごと滅する逸物(いちもつ)なれど、直ちに女を解放し去り行けば、見逃そうではないか。
さて、返答は如何(いか)に?」

朗々と放たれた虎太郎の言に、一瞬のち現れたのは、天を仰ぐほど大きな、青白い肌をした僧侶。

眼窩(がんか)に眼球はなく洞穴のようだが、しかしはっきりと虎太郎の姿を捕らえているのが分かった。

「我が“(あるじ)”の命なれば、ここで退くは主命に(そむ)くこと(ほか)ならざり。
いざ、参らん!」

法衣(ほうえ)のそで口から伸びた丸太のような腕が、虎太郎を頭から押しつぶそうとして振り下ろされる。

刹那(せつな)、虎太郎の利き手は条件反射で抜刀していた。

「……悪く、思うな」

決着は一閃(いっせん)にして。
人外の魂がひとつ、この世から消え去った。

白銀だったはずの刀身が黒く染まるのを見届け、虎太郎は剣を(さや)に収める。
……気分は、良くない。

息をつき、それから女のほうへと近づいた。

「来ないで!」

おびえというよりは、怒り。
虎太郎を見る女の眼差しは嫌悪感に満ちていた。

「なんなの、あんた達!」