(コイツにまともに付き合ってたら、夜が明ける)

イチの水干(すいかん)襟首(えりくび)を引っつかみ、自分の部屋に連れ込むと、セキは本題に入った。

「──貝塚……ハク殿たちが“大神社”を指定してきたのは意味があるか?」
「まぁ、普通に考えれば貴方の持つ“神逐(かむや)らいの(つるぎ)”への警戒でしょうね」

神聖な場所での刃傷(にんじょう)沙汰(ざた)は御法度。それが暗黙の了解というものだろう。
セキは、鼻で笑って天を仰いだ。

「オレも()められたもんだな。ハク殿相手に、まさか抜くことはないと思われてるのか」
「そうですね。……貴方がここまで瞳子サマにご執心とは知らないのでしょう」
「確かに、昨日までのオレなら、抜かなかったろうな」

一方的に想いを寄せているだけなら、白い“神獣”と“神官長”への威嚇としてのみ使っただろう。
だが、いまは。

(瞳子の想いを知ってしまった)

好きな女にあんな風に乞われて、易易と手放せる男がいたら、お目にかかりたいぐらいだ。
一瞬にしてよみがえった、ぬくもりと匂いに、理性を総動員して息をつく。
片手で、顔を覆った。

「いい思いを反芻(はんすう)してる所、恐縮ですが」
「してねーよっ」
「瞳子サマの御心(みこころ)は、ご存じですよね?」
「……知ってる」