小さくうなずいて、セキがそこで初めて瞳子を見下ろした。いたわるような眼差しを向けられる。

「悪いな、瞳子。怖い思いをさせた」
「それは……大丈夫。だけど、さっきの人って……」
「あの者は、この国───“上総(かずさ)ノ国”の“神官(しんかん)長”貝塚(かいづか) 保平(やすひら)だ。
……ハク殿と懇意にしている者だと、聞いている」

何かを思うようにセキから告げられた内容に、瞳子は自分がこの世界───“陽ノ元”にやって来た当初のことを思い返す。

「あなたは、僕の“花嫁”として喚ばれたのだから」
そう言って、銀色の狼に変わった、銀髪の美形の男。

(そうだ……私、もともとはあの胡散(うさん)臭い男の“花嫁”だった……)

あれは、たった四日前の出来事だ。それからあまりにも目まぐるしく自分の状況や環境、そして気持ちの変化もあって、忘れていた。

(ちゃんと考えてこなかったけど……私、これから、どうなっちゃうんだろう……)

「大丈夫だ、瞳子。俺は、約束を(たが)えるつもりはない」

不安にかられた瞳子を見越したように、セキの手が瞳子の右手の“(あかし)”に触れる。

「瞳子は、俺の“花嫁”だ。心配いらない、何があっても護り抜く」
「セキ……」