「お前──!」「セキ様っ」

怒気をはらむセキの言葉とほぼ同時。イチが瞳子たちの前に現れる。

「“魂駆(たまが)け”は、命を削るもの。
よって、用件だけ申し上げることを、(ゆる)されよ、セキ殿」

二人の視線の先を追った瞳子の目に入ったのは、庭先に浮かぶ半透明な存在。狩衣(かりぎぬ)をまとった、中年の男らしき姿だった。

「明くる日、(いぬ)初刻(しょこく)。本国“大神社(おおかむやしろ)”の本殿にて、ハク様とお待ち申し上げる。
無論、私が異界より()び寄せたそこな【白い“花嫁”】にも、ご同行願おう。ゆめゆめ、この申し出を無視できるとはお思いにならぬことだ」

いまいましそうに瞳子をにらみつけると、男の姿は煙のように消え去った。

「イチ」

ぎゅっと、腕のなかの瞳子を抱きしめたのち、セキが黒髪の従者に鋭い視線を投げる。
呼ばれた当人は両拳をにぎり、セキに頭を下げた。

「申し訳、ございません。
力のある(あやかし)……“眷属”に対する備えの“結界”は施して置きましたが、まさか、生霊を飛ばしてくるとは。私の、手落ちです」
「……それは、お前の責めではない。ハク殿の所に遣いはやっていたのか?」
「いえ、先に“国司”である穂高(ほだか)氏へ報告の文を届けました。ハク様には、私が直接お会いしてからと思い、先触れの文だけです」
「……そうか」