感情が昂ぶると、昔からそうだった。幼い頃、父方の祖母に「お前はすぐ泣く。弱い子だ」と、罵られたことを思いだす。
それからは強くあろうと、自分の心を守ってきたつもりだったのに。

「……俺のせい、なのか? 瞳子が、泣いてるのは」
「他に、誰がいるっていうのよ、ばかっ」

とまどったようにセキに()かれ、思わず心にもない八つ当たりをしてしまう。
涙でにじんだ視界の向こうで、セキがかすかに笑った。

「悪い。……俺も、自分に都合のいい勘違いをしそうだ」

そのまま、気づけばセキの胸に引き寄せられる。つかまれた手首は開放されたが、替わりに、身体ごとセキに束縛されていた。

よく通るセキの声音が、かすれて耳もとに、落ちてくる。

「瞳子、嫌なら突き飛ばしてくれ。でないと──」
「イヤじゃないから、ずっと困ってたのに! アンタ、本当になんな」

抗議の言葉が、途中で奪われた。互いのぬくもりの共有が、心地いい。目じりに触れたセキの指先が優しくて、また、涙があふれる。
ずっと、伝えられずにいた想いが、唇にあって。せり上がった想いごと、セキにのみこまれていくようだった。

「……っ……」

離れていく唇に、追いすがるように漏れた吐息。セキと触れた心が、息苦しいほど、甘い。