これが、照れたような物言いであったのなら、勘違いではないと解る。けれども、先ほどの口調は、本気の迷惑だという意味の「困る」に聞こえた。

いたたまれなさに、瞳子は胸もとでぎゅっと片拳をにぎる。

「ごめん……! 私、いろいろと勘違いしてたみたい」
「いや、瞳子が俺の真名について、責任を感じていたのは知ってる。
その……本当に、その気持ちだけで俺には十分だ」
「うん……。
あの、夜分に押しかけて、迷惑かけて、本当にごめん」

お休みセキ、と告げた声が鼻声で、瞳子は自分で自分に驚く。

(セキに想われてなかったのが、こんなにショックだったなんて)

セキの部屋を立ち去ろうと、あわてて障子に手をかけ廊下に出たところで、呼び止められた。

「瞳子? ちょっと待ってくれ」

困惑した様子のセキに、手首をつかまれ、振り向かされた。拍子に、浮かんだ涙がこぼれ落ちる。

「やだっ……」

勘違いの恥ずかしさと、想いを寄せる相手への申し訳なさに、高まった感情ゆえの涙だった。
瞳子は、自分の涙腺が弱いことにいら立つ。

(もうっ、なんですぐ涙でちゃうの……!)