ところが、瞳子のほうは一向に引く気はないらしく、なぜかムッとした様子で見返された。

「試してみる価値は、あるでしょう? そりゃ、昼間はちょっと失敗したけど」

という瞳子の言葉に、セキは引っかかりを覚えて聞き返す。

「昼間って……なんの話だ?」
「え? だから、この屋敷に戻って来る時。ほら、アンタと手をつないだでしょう?」

行きとは違い、直接イチの『力』を借りて屋敷に戻ってきた。三人同時に空間の移動を行うのに、イチが身に付けた縄紐で作った簡易な“結界(けっかい)”。

「ああ、イチの“結界”から出ないようにした時のことか」

それは、初めての『移動』に目を回した瞳子が、時空の狭間に飛ばされないようセキが提案したことではあった。

「そう! ……でも、その様子だと、かすりもしなかったみたいね。
名前って、どうやってアンタに伝わるものなの? 頭に浮かぶっていうか、ひらめく感じ?」

(どうりであの時、瞳子が手をにぎる力が強かったはずだ)

てっきり、恐怖心からくるものかと思って、「可愛いな」と思っていたセキだったが。

見当違いな方向で瞳子の気持ちを誤解していたかと思うと、頭をかかえたくなる。

「あー……、うん。瞳子? その前に、ちょっといいか?」