「ああ、いや。刻限(じかん)は別に構わないんだが───」
(違うだろ、オレ。むしろこんな夜更けだからこそ構うべき重要な事態だろーが)

表面上はいつもの調子で鷹揚(おうよう)に応えかけ、自らに突っ込みを入れる。
しかし、セキの内心の動揺をよそに、瞳子が熱っぽい眼差しを向け告げたのは。

「あのねっ……イチから、聞いたの。アンタに、名前を伝える方法」
「はぁっ!?」

とんでもない、発言、だった。

「あいつ、瞳子にそんなこと───」

あまりのことにセキは腰を浮かしかけたが、自身を落ち着かせるため、額を押さえる。……不埒(ふらち)な助言をした従者への抗議は後回しだ。

「……いやいや待て待て。だからって、瞳子、そんな」

「はしたないって思うかも知れないけど、でも、このまま私が帰ったら、アンタ永遠に自分の名前知らないままでしょう? そうしたら、“神獣”としての本来の力も得られないままで───」

懸命に話す瞳子をさえぎり、セキは思わず声を荒らげた。

「ソレと引き換えに、コレはない! なくていい。どう考えてもおかしいだろう!」
(イチ! あいつ……瞳子の責任感の強さと優しさにつけこんで、ナニ教えてんだ!)