「……貴方の言葉をまともに聞いてると、こちらの気が触れそうになる……」

溜息をつき、手にした“神逐らいの剣”を床に置く。
倫理も道徳も、律令でさえ、この祖父にかかっては、目的のため利用できるか否かの判断材料でしかない。

尊臣の目が、セキを見据え細められた。

「お前は『人』としての己に(とら)われ過ぎだ。
いいか? 『人』にない力をもつモノとして、お前はすでに在る。
萩原の荘園(しょうえん)貫高(かんだか)を上げられたのは、何も『人』としての裁量だけではあるまい。その身に宿る“神獣”の力ですら利用したのだろう?
それは、なんの為だ」

セキのなかにある真理───それが、尊臣が為したことと相容(あいい)れないものではないことに、気づかされる。

「……もうオレは、萩原のためには動けませんよ」
「いまさらだな。……それでいい」

傲然とした笑みを(しわ)だらけの顔に浮かべ、尊臣の片手がセキを追いやるように振れた。

「去れ。……俺に会わせたくないほど大切な“花嫁”が、待っているのだろう?」

「……オレが“神獣”本来の力を手にした暁には、今度こそ、この剣は返しますからね?」

「その頃には、俺はとっくにくたばっているだろうがな」