「ふうに無体をはたらかない、きちんと連れ帰るって“誓約(あれ)”嘘だったの? なんの効力もなかったワケ!?」

イチのうわの空な反応に、瞳子の怒りは治まらない。だが、肝心の当人は、何でもないことのように説明をした。

「……ああ、誤解です。あのモノの力量が思った以上にダメダメだったんで、とある方の元で修行をさせてます」

「修行って……それ、大丈夫なの?」

「私よりも高位の(かた)ですし、女性(にょしょう)なのでご安心ください。まぁ少し、気になる点もありましたしね」

「何それ? どういうこと?」

聞けば聞くほど不可解な言葉が返ってくる。
イチの性質には慣れたつもりでいたが、やはり側にセキがいるといないとでは、話がややこしいままで、通訳が欲しくなる。

(もうっ。いろいろ教えてくれるってのは、なんだったのよ?)

イチに対する不審感を募らせる瞳子に対し、当の本人はどこ吹く風で「いえ、こちらの話です」と、ふうの話を打ちきった。

それより……と、何を思ったのか、突然 瞳子に向けにこやかに告げた。

「“神獣”───セキ様に、『真名(なまえ)』を伝える方法、知りたくはありませんか?」

何かを(たくら)んでいる者の笑顔、だった。