「……常識ないとか、罵ったりしないで教えてくれる?」

「この前の朝のこと、根にもってますね。私も言いすぎましたが、貴女も相当なものでしたよ?」

「……うん。あの時は、ごめんなさい」

打てば響くように会話ができる。気を遣う必要がない相手として最初から接しているせいか、イチとの言葉の応酬は楽だった。

「まぁ貴女がそうおっしゃるのなら、最初のほうの貴女の諸々の無礼も水に流しましょう。
……で、本当のところはどうなんです?」

相変わらずの偉そうな物言いも、これがこの従者の性質(たち)なのだと解れば、気にならなかった。
瞳子は、ためらいを捨てきれないながらも、口をひらく。

「セキには、言わないでくれる?」
「内容によりますね。それがセキ様のためになるなら、黙秘します」

イチの返答に微妙な気分になりつつも、瞳子は自身の本音を思いきって伝える。

「正直にいえば、迷ってる。セキのこと……嫌いじゃないし。でも、だからといって、ここに……この世界に留まるっていうのは、なんか、違うと思うし」

瞳子の言葉に、イチは盛大な溜息をついた。その反応に後悔の念を禁じ得ず、瞳子は唇をとがらせる。