《十》

小鳥のさえずりと飛び立つ羽音が、穏やかに響くだけの空間で。
切々と語られるセキの想いに、応えたくなる自分を必死で抑えていると、突然、第三の声が割って入った。

「ただいま戻りました、セキ様」

音もなく、兆しもなく。
まるで、先ほどからその場にいたかのように、黒髪を束ねた小柄な青年が、瞳子とセキの真横に現れた。

「イチ……」
「お取り込み中のとこ、すみませんね。
ですが、お忘れのようなので、いまひとたび念を押しますと」

言って、わざとらしい咳払いをひとつ入れ、話を続ける。

「このお───方は、貴方と白狼(はくろう)様、それぞれと“契り”を交わしておられる“花嫁”様です。
初めに申し上げた通り───このあと、大事が控えておりますので、すべきことはさっさと済ませてください。
つまり」

「───じーさんに、“神逐らいの剣”を返して来る」
「そういうことです。行ってらっしゃいませ」

不機嫌そうに言い置いて、セキが本殿と思わしき建物の中へと入って行く。それを見届け、黒髪の従者は瞳子を見やった。

「……随分と、セキ様とお親しくなられたようで」
「は? ちょっ……いつから見てたの!?」