呆然とした面持ちで、つぶやくように言った瞳子の顔が、みるみるうちに色を失せていく。
嫌なことを思いださせてしまったとは思うが、保身もある程度は必要だ。

「悪いな。怖がらせるつもりはなかった。
ここは、“下総ノ国”だ。“上総ノ国”の“神獣”が好き勝手できるとは思わないが、万が一ということもある。
俺に瞳子を、確実な形で護らせてくれ」

つないだ手を取り、両手で包みこむ。次の瞬間、唐突に思い立ったように瞳子が叫んだ。

「ちょっと! よく考えたら、もうアンタと手をつないでる必要、なくない?」

「……気づいたか」

「気づいたかって、アンタ……。
もうっ、約束守ってくれてるのはありがたいけど、こんなっ」

「───約束してるからだけじゃない。俺が瞳子を護りたいんだ」

振りほどかれる寸前で強く手をつかみ直し、セキはその場でひざまずく。
気を抜けば、手の内をすり抜けて行きそうな、自分よりも細くて小さい瞳子の両の手をにぎった。
そのまま、押しいただくようにして、告げる。

「瞳子。あきらめが悪い男だと思うだろうが、俺はやはり、お前にこの先もずっと、側にいて欲しいと、思ってる」