(何しろ“神力(しんりき)”を扱えない“花嫁”の命を、何度も奪ったり奪いかけたりしてる人だからな)

さすがにそれを瞳子には言えないが、会わせて機嫌を損ねるのは得策ではないだろう。
彼女の性格上、祖父とやり合いそうなのは目に見えている。

「イチがもうじきここへ来るはずだ。そうしたら、瞳子を託して俺だけで行ってくるから」

「そう……。アンタがそれでいいなら、私もいいけど。
なんだったら、先に行って済ませてくれば? イチなら私ひとりで待てるし」

「いや」

危機感のない申し出に、セキは苦笑いをした。

最初の頃に比べると、瞳子の“陽ノ元”やこの世界の住人に対する態度がだいぶ軟化していることが解る。

解るが……正直、あまりに気を許しすぎているのにも、困りものだった。

「“大神社”は、現世(うつしよ)にあっては神域中の神域。滅多な(あやかし)は近づけないが、“眷属(けんぞく)”となれば話は別だ。
いつまたハク殿が差し向けたモノが瞳子の元にやって来くるとも限らない」

セキの言葉に、いまのいままで忘れていたといわんばかりに、瞳子の顔が急激に強張った。

「そっ……か、そうよね……。
私……すっかり……なんのために、アンタの“花嫁”になったか、忘れてた……」