「実緒様とのことは、よろしいんですか? 瞳子様とは別の意味で、お似合いでしたけど」

「いやお前さ……何を見てたんだよ? オレが実緒とどうにかなると、本気で思ってたワケじゃないよな?」

「だって、あんなに可愛いらしい方じゃありませんか。
殿方が三年も放っておかれるなど……若はどこかお悪いのではと心配しておりました」

「待て待て待て。
あー……妙子? お前の兄貴、格好良いと思うか?」

「はい。自慢の兄です」

「じゃあさ、その兄貴とむつみ合えって言われたら?」

瞬間。高速で放たれた獣の手刀が、セキの目の前をよぎる。
すんでのところでかわしたつもりだが、セキの前髪が数本、地面に散り落ちた。

「若。戯れにしても、言っていいことと悪いことがございますよ?」

「だから、そういうことだろ。オレにとって実緒は、妹も同然なんだよ。
それで手ぇ出したら……獣の所業だろ」

「ワタシ相手に『獣の所業』とは……言いますね?」

「お前だから言ったんだよ」

お互いに、気まずい話題を口にした自覚があったようで、つかの間、沈黙が訪れた。
視線の先では、瞳子と由良が何やら楽しそうにくすくすと笑い合っている。