「フリ、ですか? だとしたら……瞳子様は相当 装うのが上手な方となりますね。
ワタシにはとても、瞳子様がそのように器用な方だとは思えませんが。……とても素直で綺麗で……可愛いらしい方に見えます」

「瞳子の心根が綺麗なことは確かだな」

セキの脳裏には、昨日の瞳子の泣き顔が焼き付いて離れない。
彼女を泣かせたのは自分の生い立ちが原因なのに、愛おしく思ってしまうのは間違っているかもしれない。

(それでもオレは、あの時の瞳子の顔を、一生のうちに何度も思い返してしまうのだろうな)

笑顔よりも泣き顔を思いだすのは、嗜虐(しぎゃく)趣味のようで罪深く感じられるが。

「……そんな風に瞳子様を見つめられて、それでも『袖にされた』などという言葉で、済ますおつもりですか? 意気地のない方ですね」

突き放すような物言いをされ、セキは思わず肩を落とした。

「オレの身近にいるヤツは、そろいもそろってオレに対して容赦ないよなー……」
「皆、若に幸せになってもらいたいだけですよ。そのためには苦言も呈します」
「分かってる。……ありがとな」

鋭い爪をわざと出してみせる妙子に微笑み返す。それに鼻息で応じたあと、妙子が思いだしたように言った。