ずいと、瞳子のほうへと押しやれば、面白いように妙子がうろたえてみせる。

案の定、こちらを見た瞳子の目が、宝物でも見つけたかのように輝いた。

「え……、嘘っ。……あっ、ごめんなさい!
ええと、瞳子です、よろしくお願いします」

明らかに驚いてはいたが、誰が見ても好意的な反応なのは間違いなかった。

(オレと出会った時との落差……ま、仕方ないけどな)

情けない気分になりつつも、瞳子に挨拶を返し終えた妙子に話しかける。

「な、言ったろ? 瞳子はむしろ喜ぶって」
「驚きました。あんな風に見られたのは、初めてです」

ふたたび、由良と何やら話し込む瞳子を見やり、妙子は感心しきりだ。

「瞳子はな、狼の仔を産んでもいいとすら言ってるくらいだからな」

「……惚気(のろけ)ですか」

「いや、オレはすでに袖にされた」

「そんな風には見えませんでしたよ? 先程のお二人は仲睦まじくされていらしたではありませんか」

黒猫の顔が、納得がいかないとばかりにセキに近づく。はは、と、セキは乾いた笑いを返した。

「まぁ……母上の手前、な。瞳子に、恋仲のフリを頼んでいる」