了承を得るように、瞳子がこちらを見上げてきた。うなずいて、セキは気になっていたことを由良に尋ねる。

「母上。供の者を必ず付けてくださいとお願いしたはずですが、おひとりで出歩いておられるのですか?」

「あら、嫌だわ。虎太郎の目は節穴? 妙子(たえこ)がそこにいるでしょう?
さ、瞳子さん。あちらに参りましょう」

ふふふ、と笑いながら瞳子と共に陽のあたる切り株のほうへ向かおうとする由良に、もう一度セキが声をかけようとした時。

背後で、かさり、と、枯れ葉を踏む音がした。

「……ご無礼をお許しくださいませ、若。あちらの女人(にょにん)───瞳子様を怖がらせるのではと、姿を消させてもらっておりました」

「いや。……瞳子は、むしろ喜ぶと思うぞ」

セキは、振り返った先のモノを見て、苦笑いを浮かべてみせた。

ほぼ全身を覆う黒い毛並みに、金色の瞳。
四肢の先だけ白い毛に覆われ、人のように着物をまとい、後ろ足だけで立つ、その姿。

猫の顔が人語を操り、前足が人の手と同じように、身体の前で行儀よく重ねられる。

「また、お戯れを」

「いや、ホントだって。
───瞳子。コレは母上の護りに付かせている、妙子だ」

「若っ……」