「瞳子には、敵わないな。……やっぱオレ、お前好きだわ」
「は? って、え?」

ぽつりとこぼされた一言は、つぶやきに似て。

(しかも、いつもと口調違うから誰!? って感じだったし!)

軽い口調で言われたにも関わらず、瞳子の胸にはセキの「好き」という言葉の矢が突き刺さる。

(なんでそんなっ……軽々しく好きとかいうのよっ……)

ばくばくと高鳴る心音の激しさに、セキへの恨みがましい気持ちでいっぱいになっていると、

「あら。お客様?」

という、鈴を転がすような可愛いらしい声が聞こえてきた。

つながれた手に、力がこめられる。
瞳子はセキのその態度に、彼の視線の先を見た。

木漏れ日のなか、首をかしげてこちらを見る、小柄な女性がいた。
浅葱色の着物を上品にまとうその姿は、一見すると愛らしい少女のようにも見える。

「ご無沙汰しております、母上」

ややかすれた声で告げるセキの手を、瞳子は思わず強くにぎり返していた……。